ミラーリング



そのうち治るだろうとたかをくくっていたN尾君の不眠症ですが、いっこうに良くならず、伝家の宝刀、N鍼灸院に駆け込みました。こちらには20年くらい前からお世話になっているんです。5年ぶりくらいの訪問だったのですが、その間に5匹いた猫は1匹になってしまい、その他近親の方も相次いで亡くされたりと、H子先生ちょっと傷心な雰囲気です。脈を診た後、手足に鍼を少しして、その後は指圧や気功やマッサージ、私は、私の側面を何度も指先側に引っ張っるようにされるのがとてもキモチがいいんです、時々N尾君もやってくれるけど、これは私の生き甲斐のひとつと言っても過言ではないわ!先生はいつものようにひたすら世間話をしながら、でも先生の指や掌からは、先生とは何か違う生き物みたいな温度みたいなものが、私や、私の先のN尾君の指の腹や腕、私に連なる皮さん肉さん達を魅了します。あのねえみんな死んでしまって誰もいなくなって最後にひとりになるくらいなら誰か生きているうちに海に飛び込んで死んでしまおうかしら、なんて縁起でもないことを言われて、N尾君ドッキリしていました。生まれてきたことに何か特別な理由とか課せられた義務とかそんなものは無いんだって気がついて、楽しく生きる、ただそれだけでいいんだ、って最近やっと思えるようになった、そう言うH子先生と同じことをN尾君も時々口では言うけど、たぶん本当に理解していないと思う、私やNOともっと仲良くしないとたぶん楽しくなんかならない、仲です、突然ですけど、爪子は最近こうしてキーボードなんかいじるようになって、ちょっと考え方がいろいろ見えてきたりして、仲、っていうのがもしかしたら他者との家、あるいはもしかしたら他者そのものなんじゃないかしら、って思ったりしています。他者っていうのは、全くの他人、ヨソ、だから例えば、君の失恋の悲しさはわかるような気がする、なんていうのは、他者の関係ではない、気持ちがわかる、というのは自分の感覚で相手を計っている、そういう理解は対象への単なる自分の投影なんじゃないかしら、「わからない」、それが正しくて、私やNOや皮さん肉さんはそれぞれ他者なんです、よそよそしい関係でいいの、思いっきり引きこもりになってその分世界を広く魅力的な遊び場にするの、N尾君っていうのは私達の単なる集合体でもないんです、それは例えば私(爪子)を構成している物質は主にタンパク質ですけど、それを言ったところでなんにもならなくて、部品のタンパク質を爪にしている意味っていうのがあって、その意味のおかげで私は爪子なんです、設計図はDNAかもしれませんけどね、設計図は意味ではないの、あー、脱線しちゃったかしら、っていうか本線なんかもともと無いわよね、でもN尾君に言いたいのは、ここ、この文字のラインに私達は今生きているんです、私やNOを存在させている意味、もしかしてそれはタマシイに関係しているかもしれない、私達を統合している存在。H子先生がいうにはN尾君の今回の不眠症は気と血のバランスが崩れたからだそう、血が上がったわけではなくて、気が下がって相対的に血が低い状態になっているから、気と血、東洋医学の考え方だそうで、気はエネルギー、血は血とかの体液、西洋医学は身体を物の集合として扱うけれど、東洋医学は身体をその時々の状態として考える、どちらが正しいとかではないんですよね、そんなことをボーッと考えながら銭湯でお湯に浸かってると、浴槽の縁の表面の水滴と、目の前を横切るおっさんの毛むくじゃらな足と、水温表示の灯りとかが全部同じ次元に見えてきたりします。世間では国境が無くなって、個人と個人の「国境」が最後の砦、私はN尾君やNOやその他、同じ家の住人達と話し合わなければいけない、理解できないから、でもだから家が必要なのかもしれない、でも理解なんて永遠にゴメンですけど、理解するくらいなら死ぬまで楽しくお話した方がいいわ、だわ。



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七尾太佳史
(ななおたかし)

「秋田ばる七尾」店主。毎週水曜日更新です。


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